GET BEHIND THE WHEEL / 200km from TOKYO

Photography_Kenta Yoshizawa   Edit & Words_Koichi Yamaguchi

 

 

 

里山十帖 200 Km from Tokyo

GET BEHAIND THE WHEEL Part 1 SATOYAMA JUJO 

 

 

 

日本一の米を求め、魚沼の古民家宿へ

東京から関越自動車道を新潟方面へ約200km。そこは、日本を代表する米処、南魚沼である。この地に、ミシュランガイド3 つ星店の日本料理人が、“ 日本一旨い米” と太鼓判を押すコシヒカリを、メインディッシュとして供してくれる温泉旅館がある。一般には流通していないというこの珠玉の米を食すために、1 泊2 日のドライブの旅へ。

 

 

 

各テーブルごとに土鍋で炊かれる“ 日本一旨い” コシヒカリ。
10 月のメニューより、「焼き鮎」。鮎と塩、だしで作ったスープをそばにからめていただく。
宿の裏山でとれた栗、銀杏、くるみ、あけびなどからなる八寸。

 

 

日本を代表する米処、南魚沼。この地に、ミシュランガイド3 つ星店の日本料理人が、“ 日本一旨い米”と太鼓判を押すコシヒカリを、メインディッシュとして供してくれる温泉旅館がある。

 

 

 「あぁ、旨い旨い米が食べたいどこかで聞いたことがあるような台詞だが、仕事中心の多忙な日々に追われ、ついつい食生活をないがしろにしがちなせいか、最近、そんなことを感じている。でも、めまぐるしい日々を送る東京人には、同様の想いにかられている人も案外多いのではないか。

 ところで、米といえば、コシヒカリ。コシヒカリといえば、新潟県は魚沼である。我ながら短絡的だが、魚沼が日本有数の米処であることは間違いない。東京からの距離を鑑みるに、1 泊2 日程度のドライブの目的地としても最適だ。さっそく、魚沼で旨い米を食べさせてくれる店や宿がないか調べてみると、一軒の温泉旅館を見つけた。「里山十帖」である。なんでも「ミシュランガイド東京」で3 つ星を獲得した日本料理店「かんだ」の神田裕行氏が、“ 日本一のお米” だと惚れ込んだコシヒカリを、“ メインディッシュ” として供してくれるという。さっそく予約をとり、ジャガー XE S を彼の地へと走らせた。

 

 

天然きのこのお椀。
地元の越後もち豚を杉の葉でスモークした肉料理。
地元の農家が育てた伝統野菜による前菜。

 

 

 東京から関越自動車道を走ること約2 時間。塩沢石打インターを降り、大沢山温泉を目指して走る。広い田畑を貫く直線路がワインディングロードに変わる頃には絵に描いたような棚田のある景色があらわれ、おのずと米への期待感が高まる。そうして走ること約10 分。深い木々に覆われた大沢山の中腹に、里山十帖はあった。

 旅人を出迎えてくれるのは、築150 年のたいそう立派な古民家を移築再生したレセプション棟だ。欅製のいかにも重厚な正面玄関の扉より中へと歩を進める。その先に広がるロビーは圧巻だ。総檜、総漆塗りの空間は、見上げれば天井高が10m を超える吹き抜けで、最上部の窓から降り注ぐ自然光が、幾重にも交差する褐色の太い柱と梁を優しく照らし出している。

 次に目に入るのが、ロビーに置かれたヤコブセンのエッグチェアやコルビュジエのLC2、そして柳宗理のバタフライスツールといったデザイン家具だ。これらが、誂えられたものであるかのごとく、和の空間に調和するように佇んでいる。

 

 

食事処「早苗饗」。
地元の日本酒「鶴齢」。
朝食の皿の数々。

 

 

 

古民家でも快適な理由

 「この宿をはじめるにあたり、とにかく居心地の良さを大切にしました」

 そう語るのは、里山十帖の代表である岩佐十良さんだ。じつは岩佐さんは、安全な食にこだわるなど、本質的なライフスタイルを提案する雑誌「自遊人」の編集長でもある。里山十帖では、宿のコンセプトからインテリアデザイン、そして料理の監修まで、すべてにわたって采配を振る。

 「自遊人の部数は十数万部ですが、里山十帖には12 室しかありません。つまり、私にとってこの宿は、自遊人からターゲットをぐっと絞って、本当に発信したい価値観や世界観だけを具現したメディアなのです」

 たとえば、国産で無添加の食であったり、普遍的なデザインで使い心地のいい家具であったり──宿ならば自らのこだわりをお客さまに実体験していただける。それが、雑誌にはない魅力なのだという。

 

 

客室棟から露天風呂へといたる回廊。
越後の山々を望む絶景の露天風呂。
岩佐氏の母校、武蔵野美術大学のインテリアデザイン研究室の後輩がデザインを手がけた302 号室。
一番人気の301 号室。全12 室のうち8 室に客室露天風呂が備わる。

 

 

 そしてもうひとつ、岩佐さんがこの宿をはじめた理由がある。

 「新潟にはもともと古民家がたくさん存在していたのですが、冬期の寒さが厳しいため、昨今は壊されたり県外に移築されています。でも、このすばらしい建築物が壊されてしまうのはもったいない。そこで、古民家でも手をくわえれば快適になるんだということを実証したかったのです」

 リノベーションの際は、断熱材をほどこすと同時に建物全体の気密性を高め、空気循環システムを導入することで、真冬でも快適な古民家を実現させた。

 そんな明敏な主人が営む宿だからだろう。ロビーから、越後の山々を望む絶景の露天風呂、そして、アート作品やデザイン家具がごく自然に配された客室にいたるまで、微に入り細を穿つ、心なごむ空間が実現されている。この宿に流れる悠々とした時間に身を置いていると、深い安らぎが心に満ちてくる。

 それは、岩佐さんがもっともこだわる、食事についても同様だ。地元の農家が有機栽培で育てた伝統野菜を中心としたメニューは、いずれもが繊細で優しい味付けがほどこされており、自然の滋味をこれでもかとばかりに堪能できる。地元の米と水でつくられた日本酒との相性も抜群だ。

 

 

 

築150 年の古民家を移築再生したレセプション棟。

 

 

 

 

1 階の食事処「早苗饗」よりエントランスアプローチを望む。冬は2 階まで雪が積もることも。

 

Car

JAGUAR XE S

XE の究極のスポーツサルーンであるXE S は、アルミの軽量ボディに新開発のサスペンションを装備。ジャガー独自の「猫足」と呼ばれるしなやかな乗り心地は継承しつつ、3L V6 スーパーチャージャー付きエンジンで力強い加速を実現。追従式クルーズコントロール、自動緊急ブレーキも標準装備。

 

 

 そして、いよいよメインディッシュのご飯である。この宿では、テーブルごとに土鍋で炊くスタイルで供されるのだが、スタッフの指示通り充分に蒸らしてから土鍋のふたを開けると、湯気が立ち上がると同時にえも言われぬ香が広がり、思わず笑みがこぼれてしまう。

 実際に食すと、少し大きめの米粒は輪郭がはっきりしていて、想像以上にもちもちとした食感がある。甘みと風味もしっかりしている。確かに、旨い。いや、旨いという表現だけではまったく足りない。正直、こんな米は今まで食べたことがない。このご飯を食すためだけにでも、200km を走って来る価値がある。

 

 

レセプション棟で見つけた、木版に描かれた鶴の絵。恐らく150 年前のものと思われる。
宿の敷地内に流れる湧き水。この水も、ご飯がおいしい理由のひとつ。
レセプション棟・ロビーの上に位置するラウンジ「小屋組み」。ヤコブセンのエッグチェアをはじめとするデザインチェアに腰を下ろし、コーヒーやミネラルウォーターを無料でいただくことができる。

 

 

1 年がかりで見つけ出した“ 究極の米”

 「標高が低いのに山が高い。そんな南魚沼特有の地形が、旨い米を育て上げるんです」

 岩佐さんによると、旨い米が育つには昼夜の寒暖差が重要だが、南魚沼の東側には標高2000m クラスの山が連なっており、夜は山からの冷たい空気が流れ込み冷えるのだそうだ。また、南魚沼でも西山と呼ばれるこの地域は、土が砂壌土と粘土質からなり、雨によりミネラルが田に流れこむため、より旨いコシヒカリに育つという。

 「さらにですね──」岩佐さんは、瞳を輝かせ、熱心な口調で続ける。「西山のなかでも、旧塩沢町の君沢、大沢、樺野沢という3つの沢のごく狭い地域のお米が、圧倒的においしいんです」

 なぜなら、この三沢が、当間山というブナ林の山からの伏流水を源流としているからなのだそうだ。この超軟水の湧き水が、唯一無二のコシヒカリをつくるのだ。

 

 

「里山十帖」からクルマで15 分ほどの魚沼スカイラインからは、早朝、運が良ければ神秘的な雲海を見下ろせる。
魚沼スカイラインにてもっともすばらしい眺望を楽しめる魚沼展望台。

 

 

そもそも岩佐さんがこの米に出合ったのは、2002 年に「自遊人」で米の特集を組んだのがきっかけだった。

 「本当においしいお米を読者に食べていただきたい。そんな思いから、この特集の1 年以上前から、日本中の田んぼに足を運んでは米を譲っていただき、毎日のように食べ比べをしていました」

 あなたもこの機会に、南魚沼を目指し200km の旅に出てはいかがだろう? 主人の食へのただならぬこだわりが見出した、珠玉のご飯が待っているのだから。

 

 

 

 

01「里山十帖」
新潟県南魚沼市大沢1209-6 Tel.025-783-6777 http://www.satoyama-jujo.com

関越自動車道 練馬IC →約2 時間→塩沢石打IC → 10 分→到着

 

 

GET BEHIND THE WHEEL / 150km from TOKYOはこちら

http://ktouch.jp/wp/magazine/798/

Special Thanks

TORU IWASA
岩佐 十良

株式会社自遊人代表取締役/クリエイティブディレクター。武蔵野美術大学 4 年のときに現・株式会社自遊人を創業。2000年に雑誌「自遊人」を創刊し編集長に就任。2014年、大沢山温泉にライフスタイル提案型複合施設「里山十帖」をオープンさせた。

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