私たちがドライブする車にはモータースポーツで得た技術が惜しみなく注がれている。今もスプリントや耐久レース、オフロードレースなど、地球のどこかでレースが行われ、ライバルと競い合って膨大な走行データと睨めっこしながら技術を磨いている車やチームがいる。多彩なモータースポーツシリーズの存在は、じつは私たちにとってとても心強いものなのだ。
Words_Tatsuya Otani
“レースはチェッカーを受けるまでわからない”
多くの先人たちが語った名言。だからこそ人はレースに熱狂し、ときに落胆を、ときに歓喜を味わってきた。これぞモータースポーツの本質であろう。
Formula 1
世界最高峰のスプリントレース
いわずと知れた世界最高峰のモータースポーツ。世界最高の技術を用いて作られたフォーミュラカーを世界最高のドライバーたちが操る姿に世界中が熱狂する唯一無二のレースシリーズがフォーミュラ1 世界選手権だ。現在のマシンは、V61.6 リッター・ターボエンジンに2 種類のハイブリッドシステムを組み合わせた超ハイテク・パワートレインを搭載。最高出力は1000ps に限りなく近いものの、熱効率は50%を超えている模様(量産車のハイブリッド車でも熱効率は40%程度)。日本からはホンダがレッドブルを通じてパワーユニットを供給。フェラーリやメルセデスを凌ぐ戦績を残している。
Formula E
フルEVによる次世代レースシリーズ
世界初の電動フォーミュラカーを用いたシリーズとして2014年に設立されたフォーミュラ E。排ガスも目立った騒音も出さないため、パリやロンドン、東京など都市部で開催できることが最大の魅力。コンサートや各種アトラクションを併催し、レースファンだけでなく様々な層に楽しんでもらおうとする工夫が凝らされている。ポルシェ、ジャガー、マセラティ、ニッサンなど参戦する自動車メーカーが計6 メーカーに上る点も注目に値する。レースはバッテリーに蓄えられた電力をいかに効率的に使って最後まで逃げ切るかで勝負が決まる。今年3 月には東京でも有明地域の公道で初開催された。
WEC
ル・マン24hを含む最高峰の耐久シリーズ
正式名称は世界耐久選手権。中東、欧州、南北米など転戦する全8 戦は大半が6 時間レースとなるが8 時間や1812km などの変則フォーマットもある。その頂点がル・マン24 時間である。レース専用に開発されたハイパーカーと、市販車に近いGT3 車両をベースにしたLMGT3 が混走。世界選手権らしいハイレベルな戦いを繰り広げる。ポルシェやフェラーリ、日本からはトヨタが小林可夢偉や平川亮とともにハイパーカー・クラスにエントリー。LMGT3 クラスにもレクサス RCF GT3 の参戦や、宮田莉朋を含め複数の日本人ドライバーが参戦中。9 月には富士6 時間が開催された。
WRC
大自然に挑むラリーの最高峰
舗装路だけでなく砂利道や雪道など、様々な路面の一般道を舞台に競い合うモータースポーツがラリー。したがって観客は沿道から競技を観戦するのが一般的。ポジションではなく走行時間を競うスピード競技となる点も特徴的。そんなラリーの頂点に君臨するのが世界ラリー選手権、WRC だ。現在、WRC の最高峰カテゴリーに挑戦しているのはトヨタ、ヒョンデ、M スポーツ(フォード)の3 社。車両はB セグメントに属するコンパクトカーだが、荒れ地を高速で走行するためにサスペンションストロークは驚くほど長く、4WD を採用。全車共通のハイブリッドシステムを用いる点も興味深い。
NASCAR
全米ナンバー1のモータースポーツ
観客動員数では全米ナンバー1 の人気シリーズのNASCAR。その最高峰カテゴリーのカップシリーズに参戦しているのはトヨタ、シボレー、フォードの3 社だが、規則に従い共通シャシーを用いており、エンジンとボディパネルなどを独自開発する。戦いの舞台はオーバルコースが大半を占める。レースは大迫力のサウンドとドラフティングと呼ばれるスリップストリームを使った、抜きつ抜かれつの展開で最後まで予断を許さない。加点だけではなく減点も存在するポイントシステム、プレーオフの採用など高いエンタテイメント性も魅力。
SUPER GT
国内最高峰のスポーツカーシリーズ
1994 年創設の全日本GT 選手権を前身とするレースシリーズ。2005 年にSUPER GT として再出発を切った。特徴的なのはGT500 とGT300 の2 クラス制をとっていること。このうちGT500 はトヨタ、ホンダ、ニッサンが開発した専用マシンを投入。市販車に似た形状の車両としては世界最速レベ
ルの性能を誇る。GT300 はレクサスをはじめとするGT3 車両と日本独自規定の車両の混走。レースは、GT500 がGT300を追い抜きながら、それぞれがクラス内の戦いも演じるという二重構造となる。サクセスウェイトと呼ばれるハンディ制度により「ひとり勝ち」が難しい点も魅力のひとつ。