伝説の名店「エル・ブジ」で修業したのち、長年にわたり静岡県の「リストランテ プリマヴェーラ」で腕をふるってきた黒羽 徹。満を持して移籍した「タンタローバ」では、どんな料理を目指すのか。新天地、御殿場で話を伺った。
Photography_Isamu Ito (lefthands) Edit&Words_Shigekazu Ohno (lefthands)
「ここでしか提供できない体験を、皿の上以外でも演出したい」
「御殿場でしか提供できないものを、思考錯誤しながら探っている最中です。それにしても富士山の素晴らしい景観も含めて、ここの豊かな自然にはすぐに魅了されましたね」
この春、「タンタローバ デル ミュゼオ 御殿場」に移籍し、話題となった黒羽 徹シェフ。いまさら語るまでもないだろうが、これまでにイタリアでの修業に加え、スペインの三つ星レストラン「エル・ブジ」での修業を経て、「ヴィラ・ディ・マンジャ・ペッシェ」の総料理長に就任。その後「リストランテ プリマヴェーラ」としてリニューアルしてからも、さらに10年間にわたって総料理長を務めてきたスターシェフだ。
そんな黒羽シェフが惚れ込んだ御殿場の魅力―それは豊かな自然に育まれた米、野菜、魚、肉といったバラエティ豊富な地の食材に加え、「食べ物+αの要素となる理想の環境づくり」が自由にできる、場のポテンシャルもあったという。
「私の目指す店は、料理が美味しいだけでは不十分なのです。よく吟味して選ぶ食器やクロス、店までのドライブ、席までの動線、スタッフのサービス、BGM や装花、庭園、眺望に至るまで、皿の上だけでない魅力づくりが必要不可欠なのです」
そう語る黒羽シェフは、すでにレストランの前庭に富士山を望むバラ園をつくり始め、また裏庭では自家菜園を耕しているという。
「東京で一週間働いてきたお客様を、どう癒して差し上げられるかに心を砕いています。BGM にもこだわりますが、小鳥のさえずりが聞こえたら、いっそ音楽を止めてしまってもいいでしょう。料理以外のここでしか提供できない体験でも、おもてなしできたらと思っています」
肝心の料理についても、探求に余念がない。「標高が高い土地にあるので、地の野菜の種類も変わってきます。いまはまだ、生産者の方達を訪ねながら、理想の食材を探している最中です。この歳になってのゼロからのスタートは大変ではありますが、毎日が楽しいですね。やはり自分は、常に新しいことに挑戦するのが好きなんだと思います」
黒羽シェフの進化は止まらない
屈託のない笑顔でそう語る黒羽シェフのこれまでの歩みは、確かに挑戦の連続であった。実際、一人のシェフでフランス料理、イタリア料理、スペイン料理の3種類を会得した者も珍しいが、今回は長年守り育ててきた「リストランテ プリマヴェーラ」を後進に道を譲る意味でも離れての移籍である。いよいよ黒羽料理の最終章となるのだろうか?
「いえいえ、この店でやりたいことを形にしたら、次は世界のトップシェフたちが集まるニューヨークでも店を開きたいですね。そのためにも、いま御殿場の店で出せる美味しい肉の生産者を探しているところです。ニューヨークで挑むなら、やはり肉料理を極めないと勝てませんから」
齢50を数えるシェフの口をついて出たのは、飽くなき挑戦への決意であり、果てなき情熱の言葉であった。生まれ変わる御殿場イタリアンを、ぜひあなたにも体験して欲しい。
タンタローバ デル ミュゼオ 御殿場
静岡県御殿場市東田中3373-20
☎︎ 0550-70-6255
Open 11:30 ~ 15:00(L.O. 13:30)、17:00 ~ 21:00(L.O. 19:00)
Close 水曜
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6 月18 日〜 6 月30 日まで店舗改装のため休業。
リニューアルプランも進行中。